2023年6月10日

労働安全衛生法

2023年は労働基準監督署の企業への監督指導が厳しくなる?

6/1日付の労働新聞のニュースに、労働基準監督署の本年度方針で「長時間残業発生の企業を全て監督指導することが判明したとの記事がありました。

労基署が、全ての対象企業へ監督指導を行うという意向はこれまで聞いたことがなく、徹底して厳しく対応する意図が読み取れます。

 

長時間残業とは、過労死ラインと言われる月80時間以上の残業を行っている状況が該当します。

労基署の監督指導の対象となれば、長時間残業以外の対応についてもチェックされ、産業医未選任などの法令違反があれば、併せて改善の指導を受けるタイミングとなります。

改めて注意したいポイント

長時間残業者が発生している企業では、改めて労働安全衛生法上の違反が生じていないか社内の状況を再確認する必要があります。

その中でも、特に労基署指導を受けやすい注意ポイントは下記のとおりです。

 

① 健康診断事後措置の対応

従業員への健康診断、受けさせて終わりになっていませんか?

企業での従業員の健康診断実施については、次の対応義務があります。

・健康診断の実施(定期健康診断、特定業務従事者健康診断、特殊健康診断(有機溶剤健康診断等)など)
・従業員への健康診断結果の通知
・健康診断結果の5年間保存
・健康診断結果についての医師からの意見聴取(就業判定)

上記太字とした、医師からの意見聴取について対応漏れを指摘されるケースが増加しています。

対応する義務を知らなかった、という企業のお話も多いポイントです。

従業員数に関わらず対応が必要だということも改めてご確認ください。

また、以前コラムにも記載しましたが、従業員数50名未満の事業場向けに無料対応を提供している産業保健支援センターに、健康診断の就業判定の対応を断られるケースも発生しています。

自社の従業員の健康診断結果の就業判定を行ってくれる医師をしっかりと確保することが、企業人事においてまず必要な対応となっています。

(参考: 地方で増加?健康診断結果の就業判定の対応拒否 )

 

② 産業医の選任

従業員数50名以上の事業場では、産業医資格を有する医師を自社の産業医として労働基準監督署に選任報告する必要があります。

違反した場合、労基署の指導勧告を受けるのはもちろん、罰金刑(刑事罰)の対象となります。

企業が産業医として選任する医師には、医師免許証だけではなく産業医資格を有する医師を確保する必要があります。

いくつか産業医資格の種類はありますが、最も取得者の多い日本医師会認定産業医資格については医師の3分の1(30万人中の10万人)が取得していると発表されています。

地域によっては医師不足のエリアもあり、その中で1/3しか資格を有していない産業医を探し出し、自社の産業医としての就任を承諾していただくことに苦労するケースも生じています。

さらには上記資格保有者の内、実際に産業医として活動している医師はさらに半分以下ともいわれています。

従業員数50名を超える予定が見えた段階で、早期に準備を進めることが望ましいでしょう。

 

また、産業医についても労基署への選任報告を行えば終わり、ということではなく、

選任後も産業医には、安全衛生委員会への参加や職場巡視を行ってもらう必要があります。(ともに原則は月1回以上の実施)

安全衛生委員会への参加については、産業医と委員の都合を合わせることが困難なケースも多いことから参加については義務とされていませんが、衛生管理の専門家である産業医を委員に任命することが求められ、委員会当日の参加が難しい場合は、後日議事録を確認の上、議事内容へのコメントやサインを残してもらうといった対応が必要となります。(まったく産業医がノータッチの衛生委員会開催について、労基署から指導を受けるケースがあります。)

(参考: 産業医とは? 衛生委員会について )

 

③ 衛生管理者・安全管理者の選任

産業医と同様に、従業員数50名以上の事業場では衛生管理者の選任、また業種に応じて安全管理者の選任を行う必要があります。

安全管理者については、必要な研修を受講するだけで取得が可能です。

衛生管理者については、国家資格試験を受験し合格する必要がなるため、資格取得までの準備期間が必要となります。

令和4年度(2022年)の衛生管理者試験の合格率は、第一種衛生管理者で45.8%、第二種衛生管理者で51.4%といった結果となっています。(安全衛生技術協会統計結果

選任が必要なタイミングで有資格者を確保しておけるように、こちらも計画的な準備が必要な対応と言えるでしょう。

 

以上の対応について、労基署に指導を受けないため、刑事罰(罰金刑)を受けないために対応が必要なのは勿論のことですが、昨今企業の対応として検討をしなくてはならないのは、企業の安全配慮義務違反に対する民事訴訟についての対策です。

企業が従業員の健康管理を行わなければならないという認識は社会全体に周知のこととなる現代、企業に違反行為があればその責任を求める声があがる状況となっています。

法令違反があれば、勿論、安全配慮義務違反の責任を回避することは難しくなります。

損害賠償請求に加え、インターネットでブラック企業として情報が拡散するなど、企業のイメージダウンにつながる可能性もあり、そうなれば企業経営への大きなダメージが発生します。

従業員の健康管理に関わる労働安全衛生法の義務を軽んずことなく、しっかりと法令順守の体制を整えることが重要です。